サッカーゲームを取り巻く「コンディションの重要性」——インターフェースの平等性に課題
国際サッカー連盟(FIFA)が主催するeスポーツの世界大会「FIFA eWorld Cup Grand Final 2018」に、世界中からeSportsの選手が集い、数多の激戦が繰り広げられた。8月4日に決勝戦が行われ、熱狂さめやらぬ中、好評のうちに幕を閉じた。日本人の期待を大いに受けた、日本代表ナスリ選手は残念な結果に終わった。ナスリ選手はVAMOLA編集部のインタビューに答え、その内容は、
【FIFA eW杯日本代表18歳ナスリ選手は大会初勝利 決勝T進出に望み】
に掲載している。インタビューでは、ナスリ選手がコンディションについて語っている部分がある。リアルサッカーにおいても、選手自身の体調はもちろんのこと、ピッチの状態など、コンディションのことがよく話題に挙げられる。本稿では大会を通じて感じた、サッカーゲームを取り巻くコンディションについてインターフェースを中心に述べる。
(写真:eW杯ではレフリーが各ブースに配置されていたが、役割が視聴者と共有されていたかと言えば不十分だ)
コンソールによる違い
今大会は決勝戦の対戦方式に特徴があった。32人の選手が16人ずつ「XboxOne(以下、Xbox)」と「Play Station 4(以下、PS4)」のグループに別れ、決勝戦ではXboxとPS4で1試合ずつ、合計2試合で対戦する方式が採用された。ただコンソールが違うだけだと、考える人がいるかもしれない。しかし、センシティブな操作が要求されるサッカーゲームにとって、問題は決して少なくない。サッカーに限らず、eSportsにおいて重要なことは、正確なコントローラー操作と、そのタイミングである。
選手挙動による違い
2つのコンソールは、OSも違えばスペックも異なるわけであるから、ゲーム内選手の挙動に違いというものが当然発生してくる。サッカーゲームにおいて、選手挙動の違いは、操作のタイミングに大きな影響を及ぼす。ナスリ選手も直前インタビューで答えているように、ネット環境も選手挙動に関わる重要なファクターとなる。同選手はそれによってプレイスタイルまで変化させている。ソフトウェア各社が用意しているサーバ環境に加え、それぞれのプラットフォームが提供するオンラインサービスの環境にも大きな違いがある。どのファクターが最も影響したのかは不明であるが、決勝戦においても、XboxとPS4では選手挙動に明らかな差異が見受けられた。
ヒューマンインターフェースによる違い
ゲームをプレイする際、モニターやコントローラーなど、プレイヤーの肉体と直接関わる、ヒューマンインターフェースの果たす役割は大きい。ユーザーにポピュラーなモニターサイズは、24インチ前後であるとも言われる。決勝はポピュラーサイズであったが、予選では小さなモニターが使用されていたことが気になった。いわば、リアルサッカーにおけるピッチコンディションのような違いを感じた。そして、ゲームプレイにおいて、最も重要なヒューマンインターフェースは、当然のことながら操作を行うコントローラーである。
コントローラーによる違い
先述の通り決勝戦は、XboxとPS4でそれぞれ1試合ずつ執り行われた。これは、単にコンソールが違うというだけではなく、その最大の違いはコントローラーにある。サッカーゲームをプレイする上で、すべてのボタンやスティックが必要であるが、とりわけ重要なのが左スティックである。左スティックは、選手の移動・パスの方向・シュートの方向など、サッカーゲームの最も重要な操作を担っている。XboxとPS4では、この左スティックが配置された位置が大きく異なるのである。この操作感覚の違いは決して些細なものではない。もちろん、コントローラー全体の形状も異なるため、握ったときの感覚も大きく違ってくる。
プロコントローラーの存在
ゲーム機を購入した際、同梱されるコントローラーは箱コンとも呼ばれる。対して、材質やボタン配置などにこだわった、プロ仕様の上位コントローラーをプロコントローラー(以下、プロコン)と呼ぶ。プロコンにもいくつかの種類がある。
①ハードウエアメーカー純正のプロコン
②サードパーティ社製ハードウエアメーカー公認のプロコン
③サードパーティ社製のプロコン
Xboxには①にあたる、XboxEliteという純正プロコンがある。PS4には純正プロコンはない。大会によってプロコン使用の扱いは異なっている。多くの場合、純正プロコンであるXboxEliteは認められすい傾向にある。今大会ではプロコンがどのように扱われ、使用している選手が実際にいたかどうかまで確認はできていない。今後大会での優勝を目指す選手は、もう一方のコンソールのコントローラー操作にも慣れておく必要があるのかもしれない。もう一方のコンソールでも練習しておくという方法や、もう一方のコンソールと形状の似たコントローラーで練習する方法など、練習の段階からすでにその戦略性が求められてくる。
eSportsの今後
スポーツ選手はしばしば、その対応力も能力のうちという見方をされることがある。確かにリアルスポーツにおいては、自然環境をはじめ様々に変化するコンディションへ柔軟に対応する必要がある。それらの状況は不可抗力であることが多い。しかしながら、不可抗力であるからと、そのまま放置しているわけではない。ルール改正などによって、できる限りフェアな環境が整えられるよう配慮されている。では、eSportsにも同じことが言えるのだろうか。本稿で取り上げたことは、技術や整備によって解決のできる、いわば人為的な問題がほとんどである。eSports選手にリアルスポーツ選手と同じ、様々なコンディションへの対応力が求められるような流れがあるとすれば、今後のeSports発展への弊害となるように思えてならない。サムライにとって刀は、単なる武器ではなく、サムライ自身の精神を支えるものであり、そのサムライを象徴するものでもあった。サッカー選手で言えば、スパイクに該当するのではなかろうか。eSports選手にとっては、コントローラーがそれに該当する。
「―使い込んだ相棒とついに決戦を迎え・・・」のようなストーリーが形成され、eSports選手のキャラクターがより鮮明となれば、eSportsの発展へ寄与するところは大きい。そのため、コンソールによるコントローラー接続の認証問題など、コンソール間の垣根を乗り越えた柔軟な対応が早急に求められる。
(文●fanatic wilkinson’s)
(編集●VAMOLA eFootball News編集部)