【再編版】VAMOLA編集長ちゃまくんインタビュー「君もサカゲーでご飯を食べてみないか」(後編)

2018年7月20日、日本初となるeスポーツのサッカー専門メディア『VAMOLA eFootball News(以下、VAMOLA)』が創刊した。編集長に就任したのは、元よしもと芸人の「ちゃまくん」。

ちゃまくんは、eフットボール黎明期より「サッカーゲームを仕事にしてみないか」と、ゲーム動画の配信を通じて視聴者にメッセージを投げかけ続けてきた。現在、Youtubeチャンネルの登録者数は、86,692 人(2019年1月15日現在)とサッカーゲーム実況で日本一の数を誇る。

VAMOLAは創刊してまもなく半年が経過する。公開した記事は200本以上となった。そこで創刊当初2018年7月に行った、ちゃまくんへのインタビューを再編集し、改めて前後編の記事とした。

インタビュー後編では、eフットボール業界の課題と見据える未来を語った。


(写真撮影協力:Time Out Cafe 恵比寿)

■サッカーゲームのプロが職業となるように

ちゃまくん:今、eフットボール業界が抱えている課題は、サッカーゲームのプロ、つまり「サッカーゲームで生活をしていく人」がまだいないという事実です。

しっかりとプロが生まれて欲しいですし、(僕もサポートして)生んでいきたいとも思っています。僕はプロゲーマーと言うよりは、どちらかと言えば(Youtubeで配信する)プロストリーマーという感じです。そういう立ち位置ではなく、格闘ゲームのように、プロプレイヤーがちゃんと職業として生きていける状況になって欲しいです。

格闘ゲームなら仕事がそれなりにあって、例えば、大会で実績を残せばいろいろな(関連する)仕事に呼ばれたりします。芸人がM-1で優勝したら、お笑い番組に呼ばれるみたいな感じがあるのですが、サッカーゲームではまだ規模が違うのかなとも思います。

もちろん、必ずしも格闘ゲームの状況を追っかける必要はないとは思っていますが、まずはギャランティの発生する仕事が、(業界として)どんどん増えていったらいいなと思います。

■一番求められているのは「大会」

ちゃまくん:例えば、ウイニングイレブンは、アジア競技大会で(デモンストレーション競技として)採用されることになって、それが大手メディアでもニュースになっています(※1)。また、来年の茨城国体はとても反響が良くて、(発表があった後に開催された)ウイニングイレブンの大会では、今までなかった新しいスポンサーが増えているようでした。

そういったことを目の当たりにすると、大きな大会を通じて業界が大きくなっていくのを実感します。やっぱり大会はとても重要で、それ自体が話題になりやすく、結果的に企業のスポンサードにも響くと思います。選手の活躍できる場という意味でも、小さな大会も含めてもっと増えていく必要があります。

※1 アジア競技大会ジャカルタ
2018年8月、インドネシアの首都ジャカルタで行われたアジアのスポーツの祭典。同大会に関連してeスポーツ大会が開催。ウイニングイレブン部門で日本代表のSofia選手とレバ選手が日本初の金メダルを獲得した。

■リアルなサッカーファンを真に魅了できるかは時期尚早

ちゃまくん:ゲームに興味はないけど、サッカーには興味がある人を味方につけられたら、eフットボールはもっと広がるのではないか。最初は僕もそう思いました。「サッカー好きな人が全部お客さん、全員をターゲットにできるんじゃないか」と思ったのですが、足かけ4年(Youtubeチャンネルを)運営してみてわかりましたが…難しい。

サッカーゲームはサッカーとは別もので、例えば、サッカーゲームの1試合は長くて15分くらいしかないので、ボールを取ったら「すぐ縦パスでFWに当てる」のが基本の戦術なんですけど、サッカーが好きな人は、つい後ろでパス回しちゃうんです(笑)。

そんなことをしている時間はないんですけど、「サッカーだから」って頭でやってしまうと全然勝てない。「なんでオレはサッカーを愛していて、知識もあるのに勝てないんだ」と、そこで気持ちが焦れていって、最終的に僕の動画で叩く…、みたいな(笑)。

サッカーゲームが上手いプレイヤー、スタープレイヤーが存在したとして、彼らがサッカー好きを魅了するのは、まだ難しいんじゃないかと思います。

■サッカーゲームは少しずつ、実際のサッカーに近づいている

ちゃまくん:例えば、EA Sports社のFIFAシリーズは、アメリカの「E3」というゲームの見本市に出展していますが、スポーツアクションゲームではなく、「シミュレーションゲーム」のジャンルで参加しています。FIFAシリーズは、リアルなサッカーを体現するものを作っているという意志の表れなんじゃないかと思います。

サッカーゲームが、リアルなサッカーのリテラシー教育となる可能性は十分にあります。メッシの創造的なプレイもなんでもですけど、アイディアが先にないと(現実のプレイが)できないと思うんですね。アイディアそのものは、サッカーゲームでも手に入れることができるのではないかと。

そうなると、「コーチ」という仕事が成立するかもしれませんね(笑)。週1でも2でも、子どもたちに教えるeフットボールのコーチになれば、固定収入にも繋がります。それはそんなに先の話ではないかもしれないと思っています。

--ここからは、VAMOLA編集責任者の大久保(左)も加わり、eフットボールの課題と未来についての議論が重ねられた。

■eフットボールの間口を広げ、子どもたちにもっと親しみやすく

大久保:先日の「明治安田生命eJ.LEAGUE」のパブリックビューイングイベントでは、小学生くらいの子どもたちがいませんでした。サッカーゲームのファンになる、その入り口は、小さな子どもの頃というのが本来なのではと思います(※2、3)。

子どもや家族、女性といった「生活=LIFE」のようなイメージが、もっとeフットボールに定着すれば、ある意味の健全性だったり、他のeスポーツ競技よりも裾野の広さを表現できるのではないかと思います。その時に初めて、大会や選手にゲーム会社がスポンサードするのではなく、スポーツメーカーとか飲料メーカーとか…ゆくゆくは航空会社とかも…。

※2 明治安田生命eJ.LEAGUE
2018年5月、Jリーグが主催したサッカーゲーム『FIFA』によるeスポーツ大会。浦和レッズ推薦選手の「かーる選手」が初代優勝を飾った。

※3 FIFA eWorld Cup 2018
2018年8月、ロンドンで開催されたFIFA主催のeスポーツ大会。子どもを連れた観客が多く見受けられた。

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■選手側の気持ちを代弁しながら、企業側の論理も分かるような立場を目指して

ちゃまくん:eフットボールは、よりスケールの大きなジャンルになっていく必要があると思います。例えば、有名なFPS系のゲームプレイヤーたちは、デバイスメーカーがスポンサードしていることが多く、どこのチームも似たようなユニフォームに見えてしまいます。

サッカーゲームには、ゲーム関連会社でない企業がスポンサーとなれるポテンシャルが秘められていると思っています。そのためには、まず大手メディアや企業への啓発活動が必要です。海外での盛り上がりをしっかりと伝えながら、新しい「スポーツ選手」として、彼らがいかに有益なタレントであるかという説明をしていく…。

大久保:今後、2024年に開催されるパリ夏季オリンピックを一つの目標に、本当にeスポーツが採用されるなら、「どのような条件が揃っていれば、選手がCMに登用されるのか」などを真剣に議論しながら、企業との関係を築いていけると良いですね。

例えば、その時にANAのCMは石川遼くんじゃなくて、ナスリ選手(※4)になってもらう(笑)。それくらいを究極の目標としたいですね。

※4 ナスリ選手
FIFA eWorld Cup 2018日本代表。19歳ながら、沈着冷静な判断力に定評がある。

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■サッカーゲームをゲームの一部からサッカーの一部に

ちゃまくん:通常、ゲーマーが見るのはゲームまとめサイトや攻略サイトだと思います。でも、このサイトは何なのと(笑)。

大久保:eスポーツのサッカージャンル専門メディアとなっていますが、ゲームファンやプロ選手を目指す人だけではなく、ビジネスパーソンにも響くようにしていきたいですね。

FIFAやウイイレの情報やゲーム性はもちろん大事に記事にしていきますが、eフットボールの「現象そのもの」にもスポットを当てていく。

例えば、「FIFAが主催でサッカーゲームのW杯を開催している?」、「ゲームがeスポーツとしてオリンピックの種目になる?」、「アジア大会に水泳選手や体操選手に混じって、ウイイレの日本代表選手が?」のような現実の状況は、知れば驚きがあると思います。

感度の高い人たちに、こうした情報が届いた時、今までとは違う斬新なアイディアが生まれたり、新しいビジネスの動きなどが出てくることに期待したいです。eフットボールが「サッカーの一部」として認められていく過渡期に、チャレンジするメディア運営を行っていきたいです。

■海外で活躍するために必要なVISAと法律の知識

ちゃまくん:eフットボールで成功した選手は、日本を飛び越えて、大袈裟に言えば、世界的なスターになるチャンスがあると思います。

大久保:ただ、法律の問題が大きく横たわっていますよね。例えば、日本人のDJが(言葉が重要な要素ではないのにも関わらず)海外で活躍できていないのは、その才能とは関係なく、彼らが法務的、経理的に自立できていない人が多いからだと聞きます。

例えば、VISAを申請していなくて、海外での仕事を受けることができなかったり、経理が国際対応できなくて、正確に確定申告をできていなかったりなど…。法務的、経理的に自立していない人には、当然スポンサーなんてつけられない、ですよね。

今後、マネジメント会社も多々出てくると思いますが、まずは個人としてチャレンジするeフットボール選手が海外の活動で役立つような、法務的、経理的な情報も、VAMOLAではまとめていきたいですね。

■日本のeフットボールを世界に届ける

ちゃまくん:一方で、日本人選手の情報を世界に届けていくことも、業界としては大切なことだと思います。例えば、ウイニングイレブンなら、日本のレベルが高いということを海外のファンたちもよく分かっています。

「選手がどんな意図と目的でプレイしているのか」、技術的な面や心理的な面からアプローチしたインタビューを、英語またはスペイン語、ポルトガル語(ブラジルではウイニングイレブンに人気がある)であったら、面白いと思ってくれるのではないでしょうか。

それは、選手のTwitterやYoutubeのファン層を世界へ広げていくことにも繋がっていくのではと思います。

サッカーゲームの世界にいると、リアルスポーツで日本が世界で勝てないのは、体格だけじゃないかと思ってきます。ゲームという土俵でやると、日本人はかなり強いんですよね(笑)。

大久保:リアルな男子フットボールでの優勝はまだ現実的ではないですけど、「e」なら日本も優勝を目指せます。ビジョンは広がりますが…、まずは1つ1つの記事から頑張りましょう(笑)。今日はありがとうございました。

関連記事:【再編集】VAMOLA編集長ちゃまくんインタビュー「君もサカゲーでご飯を食べてみないか」(前編)

(インタビュー・文●VAMOLA eFootball News編集部)

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