<esports HACK #1>アカツキ熊谷祐二×Twitch Japan中村鮎葉「eスポーツとは生態系である」
FCバルセロナやアヤックスなど、プロスポーツクラブのみが参加するeスポーツリーグ「League of Professional Esports(以下、LPE)」の経営に参画しているアカツキ社が9月25日、「海外のeスポーツビジネス最前線」をテーマにトークイベント「esports HACK #1」を開催した。同社のeスポーツ事業責任者である熊谷祐二氏がプレゼンターを務め、Twitch Japan代表の中村鮎葉氏をゲストに招いた。両氏が世界各地で体験してきたeスポーツイベントや最新情報の報告、eスポーツにおける映像配信のトレンドなどに関して討論を行った。
熊谷祐二(くまがいゆうじ)
株式会社アカツキ esports事業部 マネージャー / PEL, SL. 取締役
これまでIT企業3社を創業したシリアルアントレプレナー。 2014年にiemo社 共同代表取締役就任を経て、同社をDeNA社へ売却。 2015年にスポーツテック事業を手掛けるSkyBall社を創業、2018年にアカツキ社へ売却するとともに、アカツキのesports事業責任者並びにPEL社の取締役に就任。
【Twitter】https://twitter.com/hero1
中村鮎葉(なかむらあゆは)
Twitch Japan 代表
東京出身。東京大学工学部電子情報工学科 卒。 ゲームの競技プレイヤー・大会運営を経て、2015年 Twitch 入社。日本社員第一号。 コンテンツ獲得・コンテンツ成長・ライブ配信技術アドバイス・大会運営まで幅広く手がける。元:東大受験指導専門塾 鉄緑会 英語科講師, 武邑塾 フェロー。
【Twitter】https://twitter.com/ayuha167
eスポーツは多様化の時代へ
最初に登壇した熊谷氏が、今年、現地視察を敢行した3つの大型eスポーツイベントを比較。8月にカナダのバンクーバーで開催され、過去最多の優勝賞金(約24億円)を懸けて行われた「Dota 2 The International 2018」。6月にスウェーデンで開催された世界最大のLANゲームパーティー「DreamHack Summer 2018」。今夏、VAMOLAも現地取材を行い、ウイニングイレブンで日本人選手が金メダルを獲得した「アジア大会ジャカルタ2018」。同氏はそれぞれが、競技中心の大会、ファンイベントの要素が強い大会、また国の名誉を懸けた大会と、異なるビジネスモデルで運営されていることを、数字を元に解説した。
Dota2の世界大会は同ゲームのパブリッシャーであるValve社が主催しており、競技を中心としたプロゲーマー最高峰のコンペティションである。例えるなら、サッカーのUEFAチャンピオンズリーグと言える。スウェーデンのDreamHackは、コスプレ大会やスポンサー展示、野外DJライブなど、ファンが参加できるコンテンツが盛りだくさんに行われ、参加者が主役となる野外フェスSUMMER SONICのようなイベントである。また、アジア大会は賞金を目的としない非営利の大会で、国を背負って戦うオリンピックのような存在である。「eスポーツイベント」と一口で言っても、その内容は多様化しており、ターゲットに合わせた戦略が求められていると述べた。
ゲーム配信における中国の存在感
さらに、昨今の重要な情勢として、着々と力をつけている中国企業の動画配信サービスについても述べられた。eスポーツイベントの視聴は、TwitchとYoutubeでほぼ世界全体をカバーできるとしつつも、前述のDota2世界大会のストリーミングにおいては、中国のPanda.tvとHuomaoの両サービスとも視聴者数が70万人以上に達したとのこと。中国語圏中心のサービスとは言え、圧倒的なユーザーボリュームを持つ中国企業もビジネスとして見逃すことはできないとした。
(写真:アカツキ本社で行われた会場は、eスポーツに関心のあるビジネスパーソンで満員に。)
日本のeスポーツは遅れているのではなく、違う方向に発展している
続いて登壇した中村氏は、「eスポーツは3日で情報が新しくなる分野なので、現在の事実情報を覚えてもらっても意味がない。ゲームファンはどんな人たちで、どんなマインドでやっていて、全体がどのような生態系になっているのか」という理解を深めて欲しいと話した。また、「日本のeスポーツは遅れているのではなく、ただ違う方向に発展している」ということについて話を続けた。
2000年以降、日本と海外では、ゲームタイトルの流行りが異なっていた。日本はコンソール機(PS4やNintedo Switch等)でパッケージを買うゲームや、スマホでダウンロードするアプリゲームが人気となった。対して、海外ではPCゲームが影響力を持ち続け、各ゲーマーが自身のPCを持参して、1箇所に集まり「オフラインで交流する」スタイルのイベントが多数行われてきた。例えば、前述のDreamHackなどである。その日本と海外のゲーム文化の異なる部分が、eスポーツの盛り上がり方の違いにも表れていると述べた。
ただ、Twitch社として視聴者の情報を分析する限り、昨今言われているような「eスポーツ後進国日本」のような事実は一切なく、むしろ日本には熱心なゲーマーが数多く存在し、ゲームに人生を懸けているプレイヤーは一定数いる。Twitchを視聴する日本語利用者の視聴時間などを考えると、日本人ゲームファンのボリュームは多く、ただ海外と流行や進化のベクトルが異なるだけであり、全く悲観する状況ではないと語った。
また、同氏はeスポーツが視聴される魅力について「滞在時間の長さ」、つまり「合計エンゲージメント」というコンセプトを示した。2015年、スマッシュブラザーズ(以下、スマブラ)のNintendo of America公認の大会が、アメリカで最も年間視聴率が高いNFLの「スーパーボール」と日程が重なることになったが、スマブラの方が視聴者の滞在時間が長かった事例を紹介した。また別の指標として、賞金規模と視聴者数に相関性があることを述べた。
(写真:2018年現在、経済規模としてパワーが有るゲームをTier1からTier3と区分けした図)
eスポーツとは生態系である
eスポーツを生態系と捉えると、4つのピラミッド構造になっている。上層から、①出版社(パブリッシャーとも言う。ゲーム業界独特の用語である)、②主要大会、③コミュニティ、④プレイヤーである。象徴的な言葉として、「Grow into Esports」を紹介した。最初からeスポーツが存在するわけではなく、ゲームを育て、ファンを育て、そのコミュニティの中から強い人が育ち、ようやくeスポーツとして成り立つという意味である。
Twitchでは、ゲーム会社にも、サードパーティが主催する大会にも、個人が主催するコミュニティにも、そしてプロ・ビギナーを問わず個人のプレイヤーにも、4つのレイヤー全てに配信サービスを通じてメリットを提供する事業を展開しており、eスポーツの生態系をグラウンドアップで支えていると語った。
その一例として、VAMOLAでもeフットボールの1つと定義づけている、車アクション×サッカーゲームである「ロケットリーグ」を挙げた。元々、売上自体は好評のゲームだったが、そのコミュニティが育っていないことで、「誰が強いプレイヤーで、どこにいるのか分からない」状況があった。Twitch社として「プレイヤーはここで見つけましょう」、「大会はここでやりましょう」と小さなコミュニティを支え続けた。パブリッシャーと一緒になって、生態系全体を地道に底上げしたことで、最終的にはパラマウントシアターのような大きな会場で、大会が開かれるほどになったとのこと。
ファンは見たい特定のゲームを観る
最後に、「ゲーマーの70%は1タイトルにしか興味がない」という数字に表れた重要な事実から、「eスポーツを観たい人はいない(ファンは見たい特定のゲームを観る)」という洞察を述べ、同トークライブは終了となった。
熊谷氏は「多様化」、中村氏は「生態系」という言葉を使い、eスポーツ業界は様々な利害関係者が存在し、目まぐるしく環境変化が起こる世界であるという両氏の話であった。
(文●Torinos)
(取材●VAMOLA eFootball News編集部)